月に手を伸ばせ

アートとバイク。思ったことを何処かに残したい。

雨曝しだった空に浮かぶ月#02

カケルは私の胸倉をつかんだ。
「なんだその顔いい年こいて何考えてんだ。幸せじゃないってどういうことだ、俺の言葉を無視し続けたくせにどういうことだ、打ち明けないなら幸せでいろよ。

お前が話したくなるのを待っていたけどもういい加減にしろ。お前今すぐ全部話せ話せないなら今すぐこの場で荷物まとめて俺のバイクに乗れ」

怒号のような声が私の耳に響く。
「ごめんなさい。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。」
そういってカケルにしがみつく。

野音の時だってお前、全然話してくれなかった。俺がどんなに大事に思ってるか分かってるはずじゃないか。」
カケルは私の体を引きはがしながらそういう。

「ごめんなさい」
私はもう一度カケルにいう。
「まあいいけどよ。男はもう部屋にいないのか?」
そういってカケルは懐かしいにやっと笑う表情を私に向けた。
「いない。今日部屋でてくって言った。」
そう答える。
「そうか、なら部屋の物まとめな。余計なもんはなんもいらねえ。」
そういって部屋に入る。
猫がすり寄ってくる。思わず抱き留める。
「ほんとに。どんな生活してたんだよ」
そういいながら部屋をみやる。
薬の山と、焦げたスプーンと、それを見ただけでカケルは私を見る。
「全部捨ててけよ」
そういって肩を震わせる。
薬は一週間前からなんだよ。眠れなくて。そんな事言えるわけなかった。
カケルは死ぬほど怒っていた。
「ここが生活の場で、お前が生きられるわけない。こんなアパート広すぎる。」

 

ワンルーム叙事詩

ワンルーム叙事詩

  • amazarashi
  • ロック
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 

家賃6万のアパートで僕らは世界を旅する
燃える都市
干上がった運河
呆然と立ち尽くす老人
僕らのワンルーム叙事詩無線LAN
半永久的に加速する
その遠心力で横転した 原型をとどめていない幸福
そいつを僕に売ってくれよ 笑える心を売ってくれよ
本日天気は終末型 頼みの理想もしなびたか
世界が終わる もうすぐ終わる 空しい 寂しい が流行
もう全部嫌になったから この部屋に火をつけた

誰かといても一人、何があっても満たされない部屋だった。
カケルは暴れながら部屋の中の物を捨て始めた。
こんなもの いらない いらない
流せなかった涙や
悔しかった気持ちや
あの日のみ込んだ言葉や
後悔や申し訳なさや絶望も全部
こんなのオマエじゃない こんなのオマエじゃない

そういいながら全部を捨てて行った。
まるでテロだった。

黙って炎を眺めていた 次第に騒がしくなる路上で 世界は無声映画の スローモーションみたいに滑稽に見えた
サイレンでふと我に返った 帰るべき我がある事に驚いた あぁ 僕はまだ 僕である事が許されるみたいだ
赤いランプで途切れ途切れに 照らされる隣人の狼狽 膜一枚隔てた外で この街は夏祭りの様相
薄笑いをこらえきれなくなったところで 羽交い締めにされた 僕は 僕は 必死に叫んだ 消すなそいつは僕の魂だ

テロリストを眺めている間。私は私を取り戻していった。
何を無理して来たんだろう。
カケルは私の代わりに怒っていた。
怒りの炎が家全体に及びそうで、カケルは口もきいてくれなかった。

燃えろ 燃えろ 全部燃えろ
これまで積み上げてきたガラクタも そいつを大事にしてた僕も 奇跡にすがる浅ましさも
雨にも負けて 風にも負けて 雪にも夏の暑さにも負けて
それでも 人生って奴には 負けるわけにはいかない
一人 立ち尽くす そこはまるで焼け野原