月に手を伸ばせ

アートとバイク。思ったことを何処かに残したい。

雨曝しだった空に浮かぶ月#01

そこに愛は無かったと思う。
いつの間にか増えた持病に吐血するまで気づかない程働きづめだった。
「私たちには絆があったじゃない。」
そんな話をしてもむなしいだけだった。

彼と拾ったネコだけが無神経にニャアとないて双方の機嫌をとっていた。
5年は長かった。長すぎた。
傷つけあって、消耗して、何度殺してやりたいと思った事か。殺されると思ったか。
それでも、家族が欲しかった。
そして彼にも自分が必要なはずだと信じ切っていた。


もう5年だ。音楽や映画やそういう世界はあきらめた。
だって金しか希望が無かった。
世の中には金しかないって思っていた。
そうじゃないと存在すら出来ないと思っていた。
何もかもあきらめるしかないって思っていた。

だから背を向けてきた。そんな生活が5年。

家族から自由を買うために稼ぎ。
安心を与えてもらうために稼ぎ。
毎日毎日金金金金!

小銭ばかり数えてきた。目を皿のようにして。


その日常が突然途絶えた。

私が思っていたほど、彼は私を必要となんてしていなかった。

そして生徒も私なんか必要としてなかった。

彼と拾ったネコだけが無神経にニャアとないて双方の機嫌をとっていた。

家族に自分から5年ぶりに連絡をした。

ただただ声が聞きたかった。

「あなた、会社を閉じるってお金はどうなるのよ。私たちの事は何も考えてないで、どうしてくれるのよ。いつも自分本位で。
実家に戻る?そんなこと許すわけないじゃない。あなたが実家に帰ってきて妹のキャリアに影響が出たらどうするの」

まだワーワーと言っていた。ずっと残響のように聞こえる。

彼が部屋にいると分かると動悸が激しくなってとたん不安になる。叫びだしそうになる。

これから先の人生何のために生きていけばいいか分からなかった。
だって家族も、婚約者も、仕事も、生きる大義名分をすべて失ったから。
さすがにこの渦中にいて誰かがお前を待ってるって言葉が素直に聞き入れられるほど強くは無かった。

いろんな音が同時に刃のように首元を狙ってきた。

音を遮断するために寝ようと思っても20分眠れればいい方。

動悸が激しくて起きてしまう。

隣室の彼の咳払いにビクついて眠れやしなかった。

彼の笑い声が聞こえる。あぁ、本当に私はお金以外要らない人間だったんだ。そう思いながらテレビの音量を少し上げる。

「金と銀」を眺めていた。別れる別れないの瀬戸際のころから始まったドラマだった。
エンディングの歌、最初は気にも留めなかった。彼のお金の動きや、生徒への事、いろんな思い出したくないフラッシュバックが止まらない頃から、少しだけ耳に残る言葉が聞取れるようになった。

 

ヒーロー

ヒーロー

  • amazarashi
  • ロック
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 

食欲がないもんだからさ
別に小銭がないわけじゃないんだよ
君の横顔見ていると
そういうことを言いたくなるんだよ
もしも明日世界の危機が来て
僕が世界を救う役目だったら
頑張れるのにな
かっこいいのにな

なんて空想だ
なんて空想だ

 

その君は私の中では誰とも言えなかった。家族かも知れなかった。誰とも言えない誰かにそういう役目を与えられた自分というのを見てもらえたら生きる気力もわいてくるような気がした。

なんて言っても世界の危機なんて
そうそう来るもんじゃないんだけど
それなりの人生の危機ってやつは
僕なんかにも訪れるもんで

孤独になっても夢があれば
夢破れても元気があれば
元気がなくても生きていれば
「生きていなくても」
とかあいつらそろそろ言い出すぞ

 

死にたい理由なんていくつでも見つかったけど。
私は生きなきゃいけなかった。
生きるためではなく、死なない為に、苦しみや絶望のさなかに荒野の果てに負傷の兵士が鼓舞しているようなそんな音楽だった。
死なない為に、私はその日からamazarashiを聴くようになった。
もう死にたいという気持はどこに向けられているかさっぱりわからないけどとにかく死にたいを消したかった。

小銭数えて逆算する人生も
追いつめられて首括る人生も
もうよく聞く話しだ 驚かないよな
今が世界の危機かもね 誰も選んじゃくれないけど
頑張れるかもな かっこいいかもな
ここでやれるんなら 今がまさにそうだ

どうせ「世界よ終われ」と願っても 世界はくそったれのまま 続いてく

 


神様は超えられない試練なんて与えないっていったけど、もう頑張ったよね。大丈夫だよね。
そういって甘えそうになる自分がいたけど。
それでも生きなければならないといわれたから、私は音楽を手にまた戦うことにした。
ありふれた自殺者になんてなっていいわけがない。
誰もそんなもの聞き飽きているからエンタメにすらならない。

生きてやる。
生きて戦って、絶対に幸せになってやる。

私には家族も結婚も仕事もなくなった。今は人以下だ。
だけど自分が生きる爪痕をどこにも残せないのはやはり不幸だ。
何もなくても幸福になれる。
何があっても幸福になれない人がいるように。

僕らは雨曝しだが“それでも”

今は雨曝しだ。だけど私には音楽がある。
生きるしかないならもう自分に嘘なんてつかない。

部屋の中から可愛がっていた生徒の服が出てきた。
同居していた男を刺し殺す前に家から飛び出した。
母の携帯電話の番号を拒否登録にした。
カケルに電話を掛けた。
「よぉ、あんな別れ方しといて、夜中に電話って…おい、なに、え、今から行く」