月に手を伸ばせ

アートとバイク。思ったことを何処かに残したい。

私とエレカシ#41

朝が来て昨夜のカケルは嘘ではないんだと思った。

まだカケルは寝ていた。
ぼさぼさの髪をなでながらコーヒーを淹れる。

ごそごそと起きてきたカケルが私の顔をみてほっとしていた。
後ろから強く抱きしめてくる。
「お前が死んじまう夢をみた。」
そういって泣き始める。

何度も何度も簡単に思ってきた感情だった。
死ぬ時の高揚感が忘れられずに周りなど見ていられなかった。
そんなこと、カケルには言えなかった。
「自分もいつか死んじゃうから」
そういってコーヒーをおいた。
「何でそんなことばっかり言うんだ。」
そういってカケルはまだ離れない。
「こんなに俺はお前を大切に思っているのに、家族じゃないからか、俺の為に生きたいって元気になりたいって言ってくれよ」
そういってまた泣く。
「カケルには大切がいっぱいある。お母さんも、彼女も、エレカシも、バンド仲間も」
そうつぶやく。
「自分にはカケルしかいないから、そんな風に言われても、困ってしまうよ」
そういってカケルの体を引き離しにっこりと笑う。
「説得力ないか…」
そういってカケルはしょぼんと肩を落とす。
「ないね。全然、でも、ありがとう」
そういって煙草に火をつける。
「予約、何時だっけ?」
そういって時計を見る。
「まだ時間はあるから、ゆっくりしとけ、時計、見たってお前は時間守れないから言わない」
そういってカケルは笑う。

エレファントカシマシの風というアルバムは、やはり二人にとっては思い入れの深いアルバムで カケル弾けば、私が歌う、それで二人で歌う。
病院へ行くまでの間、二人でふと口ずさんだ歌はやっぱり風だった

自分がいなくなることで相手に与える感情なんて考えた事も無かった。カケルは私をどう思っているんだろう。
私がカケルにどう思ってるかという感情だけで話をしていた。
カケルの気持ちなんて考えていなかった。
いつも遠い所から僕の所へすぐ来てくれた。
自分のダメな部分もいいとこも見ていて、なのにずっとそばにいてくれる。意味が分からなかった。


何故、僕が死ぬことに涙するのか。
好きだから。
分かっている。
その好きはどの好きなんだ…そう思ってしまう。
私もカケルが好きだ。考えれば考えるほど心が立ち入ってはいけないと拒むように音が激しくなった。

 

風

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いつか通った通りを辿り来ただけなのかい?
「いいのかい?」なんてさ 死ぬのかい?オレは…

病院の診断は急性ストレス障害だった。
まぁ、予想通りと言えば予想通りだった。
だって今は苦しくなくて、カケルのことを考えている。

「お前、何さっきから難しい顔してるんだ」
カケルは不安そうに私に聞く
「いいのかい?」
訊いてみた
「お前は一生そのままな気がする。でもそれでいい。俺は一生そんなお前のそばにいたい」
カケルはそういった。
「それは自分を女だと思っていっている事なのか?」
カケルに問う。
「どうだろうな。俺はよくわからん。でもお前が大切だ。それだけなんだ。」
カケルは困ったように笑う。
「お前を閉じ込めておきたくなる時がある。世間に触れさせたくない時がある。誰ともつながってほしくなんかない。悲しい顔をして欲しくない。苦しい思いもして欲しくない。そんなのはダメだと思う自分もいる。誰かと笑っていてほしい。その誰かがお前を一生悲しませないんなら。それくらい、大切なんだ。男だからとか女だからとかじゃないんだ。」
そういって顔をそむける。
「もし、恋をするなら、カケルがいいな。多分、ほかの誰でもなく、自分が一番執着してるのはカケルだもん。」
そう、カケルに言った。
自分が何者であっても、きっと本質は変わらない。
その本質の中に、どんな立場になってもカケルを思う気持ちはあるんだなと確信した。

あと百年生き長らえても
今のこのオレを抜けられやしまい

そんなに長くいきたいとも思わなかった。そんなに早く死にたいとも思わなかった。
「俺はさ、女が好きだから。」
カケルは言う。
「お前と付き合うなら女でいて欲しい。」
そういった。
「年取れば、男も女も関係なくなるから、そういうの無くなって、それでもカケルがその人だってひとと出会えなかったらずっと一緒にいてね」
そうカケルにぼそっといった。

あと五分しか生きられぬのなら
今のこのオレをこえられるというの

「時代も変わる。お前の愛する人を探す道を諦めちゃだめだ」
カケルは言った。
「お前の事受け入れてくれる人間もいる。お前を変だっていうやつも少なくなるから。」
そういいながらカケルはこぶしを強く握った。
「オレ東京の大学に行くんだ。だからお前も東京に来い。待っててやるから。おれももっといろんな人間に出会う。それにお前以上に大事に出来る奴探す。バインバインの巨乳の彼女をな!」
そういって笑う。
いつか死ぬ。だから生への執着を持つ。
僕の生への執着は、芸術と、カケルだけだった。
いつか死んでしまうなら、私はカケルに手を握っていて欲しいと思った。それまで一緒にいて欲しいとおもった。

いつか通った通りを辿り来ただけなのかい?
「いいのかい?」なんてさ 死ぬのかい?オレは