月に手を伸ばせ

アートとバイク。思ったことを何処かに残したい。

私とエレカシ#40

「お前はいつもろくなときに電話してこねぇなぁ。」
電話越しに少し嬉しそうなカケルの声がした。ほっとする。涙がおかしいくらいこぼれてきた。
「なんだ、どうした、言ってみろ一個ずつ」
そういって優しく私の返事を待つ。
「僕は普通じゃない」
私は声を絞り出した。
「俺も普通じゃないさ。」
そういってカケルは笑い出した。
「お前はいっつもたいしたことないところから話し始める。最初からスパッと理由を話せ」
突然に怒鳴る。
目が覚めるような声だった。
「げ、幻聴が聞こえる」
そういうが早いが。
「明日行く。ほんっとお前は、早く言え、そんなことは」
そういって電話を切られた。
またカケルに迷惑をかけてしまった。

翌日、カケルは寝ぼけ顔で博多駅までやってきた。駅まで行くと、私を見つけるが早いが抱きしめてくれた。

 

君がここにいる

君がここにいる

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町は変わるけど
ココロは変わらない
今確かにそう感じるのさ
小さな部屋にも
大きな町にも
今確かに君がいるのさ

「お前真っ青じゃねえか、寒そうにして、何があったゆっくり話せよ。でもとりあえず今は俺がここにいるから、だから安心しろ」
そういって、周りにクスクス笑われているのも気にせず私を抱きしめたまま話さない。

涙が止まらない時は
僕がそばにいて
握った手を離さないで
僕はここにいるよ

はた目から見れば幼いカップルにでも見えたのだろう。
でもそれよりももっと深い、もっと大切な絆が私とカケルの間には生まれていたんだと思う。

こんなに力いっぱい抱きしめられたのは、きっと人生でカケルだけなのではないか。
カケルの横を歩きながら私はそんなことを考えていた。

憂鬱な雨の日も
輝ける明日も
今確かに君がいるのさ

「お前はほんっとに、迷惑ばっか掛けやがって、俺がここに来るまでどれだけかかると思ってんだ」
そういいながら頭をくしゃくしゃとなでる。
「お前が男であれ、女であれ俺はお前のこと世界で一番大事に思ってるからな」
いつだったっけ、初めて会った時も、カケルはそんなことを言ってくれた。
あの時は背中が大きくて、ついていくのがやっとだったけど、少しずつカケルに追いついていったっけ。
でも、またカケルは大きな背中で僕の前に立っていた。

昨日の喜びを
優しい驚きを
今全て僕に伝えて
君はひとりじゃない
僕はここにいる
今確かに君がいるのさ

一つずつ、丁寧に話をし始めた。
福岡に来て、書類の手続きや、その他もろもろで社会に対して恐れが出てしまったこと。
初めてのバイト先でひどい目にあったこと。
カウンセラーの先生に助けてもらったけど、その影響でマーシーとうまくいかなくなって別れたこと。
自分と同じセクシャルマイノリティの凛と依存関係になってしまったが、結局うまくいかずに離れてしまったこと。
(amazarashi編で書きます)
毎日電話が親からかかってきて怒鳴り声を毎晩聞いていたら幻聴が聞こえ始めたこと。
毎朝起きて学校に仕事先に行くときの選択肢が多すぎて前に進めなくなってしまうこと。
人とかかわる回数を減らしてなんとか自分を抑えてはいるがちょっと限界が来そうだってこと。

そこまで話すと、カケルは深くため息をつきながら、
「それで…クスリは?」
と聞いてきた。
首を振る。
「そうか…えらいぞ」
そういって私の頭をなでる 。

雨上がり風が吹いてきたこの部屋の中に
煙草に火をつけて 俺は
おもてを見ていた

そして一息おいて
「もっと捨てなきゃだめだ。お前は全部のことを抱え込みすぎなんだ。手放さないと」
そういって笑う。

 「まずこのきたねえ部屋どうにかしないとな」

そういって部屋の掃除を始めた。
カケルは私と二人で、部屋の中のものを大体捨ててしまった。

どこかへ逃げ出そうなんて
言いたくないのさ
握った手を離さないで
探しに行くのさ

「ありがとう」

カケルときれいになった部屋に寝転びながら、私はポツリと言った。

「何言ってんだ今頃、お前と出会ったんだから。俺らは生きるしかねえんだからさ。」

そう言って私の手をにぎる。

町は変わるけど
ココロは変わらない
今確かにそう感じるのさ
憂鬱な雨の日も
輝ける明日も
今確かに君がいるのさ

そのまま二人で眠ってしまった。

電話もならない何も聞こえない。静かな夜だった。

久しぶりにちゃんと眠れたきがした。

 

君がここにいる