月に手を伸ばせ

アートとバイク。思ったことを何処かに残したい。

私とエレカシ#38

私は自分の性認識がどちらか分からなかった。
男性の様になりたいとも思わなかったし、女性の様になりたいとも思わなかった。

性を認知させる行動が嫌いだった。
たとえばスカートを着る事もそうだった。
肌を露出させる事も苦手だった。
髪を伸ばすのも苦手だった。

男性か女性か、どちらか一方に対して恋をすることもなかった。

幼いころは戸惑うも何も、その世界しか知らなかった。
中学になって、初めて制服を着た時、あぁ自分はこうカテゴライズされるんだと認識した。
それが当たり前で、それが普通で、誰もそれをとがめなかった。

いや、もしかすると母や父は咎めていたかもしれないが、いつも何かしら怒られていたのでそこまで気にはしていなかった。

高校に入り、やはり制服を着ない私は、校内でのマイノリティの先陣をきっていたのかもしれない。
ジャージを着て、髪をそめ、派手、と言われることで、他の部分に目をやらないようにしていた。
人の目が怖かった。
だから、安心できない人には極力自分に目をやらない接し方を身に着けた。
常に思考が、音が私を取り巻く。
決して立ち入ってほしくない領域が有り、そこに立ち入られないように話を進める。
地雷原をすっぱだかで走っているような気分だった。
間違ったカードを切れば、とたん回りに人がいなくなることが分かっていたからだ。
まわりの人間は何も知らない。何もわかっていない。不安で不安でたまらなかった。

 

女神になって

女神になって

  • provided courtesy of iTunes

 


置き去りのあなたの荒くれ魂
おどけた佇まいも結局悲しい
振り返るのちょっぴり早すぎてむなしい
めくるめく想い女にちょっとジェラシー


だからこそ凜と出会って私は初めてこれでいいと受容された気がした。
私のことを決して否定しなかったし、決して悪くも言わなかった。
間違ってるとも、その通りだとも言わなかった。ただ受け入れてくれた。

私の性別のことも、それよりもなによりも私自身を、決して否定しないでいてくれた。
バンドの練習や仕事の事、家族のことさえも、翔君がそうしたいならと受容してくれた。

周りは私の事を思っていたとしても、私の守っている者を抱えるなと騒いだり、批判ばかりしていたので、余計心地よかった。

バンドの活動の合間、小説を書いている合間、絵を描いている合間、ふと彼女を思い出した。

「凜は夜の星のようだね。音も立てずにそばにいてくれる。いつも横に」
電話口でそういいながら私は夜空を見上げる。
5分間だけ無料の通話ができる携帯のプランか何かがあって、いつも彼女とそれで話をしていた。
「私は音がしないの?」
そういって凜は残念そうに話す。
「人といるとうるさくて仕方がないけど、凛といると汽笛のような音が聞こえて、最後には何も聞こえなくなる。すごく落ち着くんだ」
私はその音に耳を傾けながら話をする。

夜半に港町で聞こえるおおきな汽笛と、私から常に聞こえてくる心臓の鼓動と、凜へ向けた鈴の音のような恋心が私を包む。

あなたの心の中
あなたの心の中入って
あなたのやさしさもっと

毎日、家に帰ると日付の変わる少し前から月が高くなる時間までのわずかな時間、凜と話した。
でも、思いを言うのがはばかられた。そもそも彼女は男性が好きなのだし、こちらの思いの独りよがりかもしれないと思ったからだ。
ただ、それよりも何よりも、この関係を壊したくは無かったからだ。初めての思いだったし、こういうのを恋というのか…と思った。ただ、好きだとか、愛してるだとかそういう言葉とは違う気はしたが、彼女にこちらを向いてほしかった

時間だけ流れてく 変な人生
新たなるやさしさを バラまき壊し

毎日彼女が眠れるまで5分おきに電話をかけて寝不足の目で学校に登校した。
目の下のクマは大きくなったけど、なんだかとても充足した気分だった。
「私は、翔君の特別ね。」
そういっていたづらに笑いかける凜に会うと、またあの心地よい音が、今度は鈴の音に駆り立てられて上手く話せなくなる。

サンキュー オマエ女神になって

私だけに微笑みを、私だけにその気持ちを向けてほしかった。
はじめての独占欲に心が壊れそうになりながら、彼女が眠るまで星空を見ていた。

本来のあなたの心に火をともせ
本来のあなたの心に火をともせ