月に手を伸ばせ

アートとバイク。思ったことを何処かに残したい。

私とエレカシ#37

凛と出会ったのは、附属の大学の博物館だった。

私は大嫌いな生物の授業を避けて、無音の場所を求めて高校から抜け出た。
勝手に耳に入ってくる音がうるさくて、人といるとその人に対しての感情すら音になってしまった。
とりあえず共感覚という言葉を、カナダで知ってからは自分は異常ではないと知っていたが、
何でこう生きづらい特性ばかりが強く出てしまうのか困り果ててしまった。
実生活で付き合う人間を最小限にしなければ、まともに生活もできなかった。

 

 

世の中にあるもの 全てがメッセージよ
すなわち俺の行動も全てが必然よ 
好むと好まざるにかかわらず逃げられない 
そんな時代の精神て奴ァ確かにあるけどよ

 


日の光が少しだけ眩しい博物館の長椅子で居眠りをしていた。
感情が無くなるのはつまりは眠っているときで、些細なことですぐ反応してしまう自分の感情を抑えるためには、
何かに集中するか、寝てしまうかのどちらでしかなかった。
風が気持ちいい。
(タン、タターン、タン…)
また音が聞こえる。音がうるさい…。
そういって眠ろうと耳を塞ぐ。
いつの間にか眠ってしまった。

陽気なる逃亡者たる君へ言う
疲れた時には孤独になれ
この世を越えてくものあるとすれば
ココロの奥のやさしさ
それがメッセージ
それがメッセージよ

「あら、こんなところで寝て、悪い子ね。」

低く甘いハスキーな声が私を釘付けにする。

顔を真っ赤にしてそむける。

「そんな、恥ずかしがることないわよ、びっくりした?ふふ、よだれついてる。」

そういって真っ白なハンカチを渡してくれた。

それを受け取らず、私はジャージの袖で口を拭く。

「ごめんなさい、私なんかが話しかけちゃ…駄目だったわね。ごめんなさい。気持ち悪いわよね」

そういってさっと去ろうとする。

「そ、そんなこと。あの、お、お姉さんはきれいだと思う。」

そういって初めて見る美しい人間をじっと見る。

「あなたには女の人に見えるの?うれしい」
彼女は私へ笑いかける。

「はじめてよ、そんな風に言ってもらえたのは」

そういってもう一度私の目の前に屈み込み、じっと目線を合わせる。


それだけで、もう死んでしまいそうなくらいめまいがした。


「あ、あのぼ、僕をそんなにみ、見ないで。」
そういって顔をそむける。

どうにかなってしまいそうだった。

「もしかして君は男の子なの?」
そういって小首をかしげる
私は首を振る。

「じゃあ女の子なの?」
そういって真っすぐ私を見る。

「わからない…」
そういってまた首を振る。

「そういう事…なるほど。」
そういってきれいな低い落ち着いた青年の声で私に語り出す。

「私ねトランスジェンダーなの。しってる?」
私は首を振る。
遠い昔、カナダで言われた。僕のカテゴライズされた名前が違った。

トランスジェンダーってね、日本ではほとんど広まってないけど、私みたいに体が男なのに女のように生きる人間の事を言うの」

面食らってしまった。本当に女性だと思っていた。

「え?」

そういって声をあげた。

「女の子に見えた?それならうれしいわ。そんな顔したの君が初めてだもの。」

私の隣に彼女は腰を下ろす。

「私は凛っていうの、ほんとは凜太郎ってなまえなんだけど、こっちの方がかわいいでしょ?」
そういって笑う。
太陽のように明るく。
眩しかった。

「僕は○○。」

彼女は顔をしかめて

「あら、そんな女の子みたいな名前で呼ばれてるの?」
と尋ねる。

「ううん、みんな翔ってよぶ。」
そうすぐに応える。

「翔ちゃん?翔君?」
へんな質問だ。

「翔でいい。敬称付けられるのは嫌い。」
そう答えた。

孤独は次の出会いのための時間だ。
ちゃかちゃかとまた音楽が聴こえる。
それでも不快ではない音だった。

 

あらゆる不幸を乗り越えて行くために
あらゆる危機を超えるために
あらゆる悲しみに耐えるために
あらゆる理不尽に負けぬために