月に手を伸ばせ

アートとバイク。思ったことを何処かに残したい。

私とエレカシ#34

あれから一度も居酒屋にはいかなかった。
たった1か月だった、とても長い1か月。
一度だけ警察に行き
カウンセラーのT先生からもう関わることはないよと言われた。

T先生は、
君は声がきれいだからと電話の仕事を紹介してくれた。
自分ではそう思わなかったけど、初めてそんなところをほめてもらった。

新しいバイト先は教会の近くの小さな葬儀屋さんだった。
前よりも収入は減ったけど、電話を取り次いだり、香典返しの梱包をしたり、お花の選定をしたり、なかなかエクセレントな仕事だった。
それに、電話を待っている間は勉強をしていても怒られなかったし、
早朝にお手伝いに行くと朝ごはんを食べさせてもらえた。
社長の奥さんがご飯が余ると困るからと、いつもおにぎりとおかずの残りを学校に行く前にこっそりくれた。すごく恵まれた職場だった。

 

 

帰り着いたら 寝転んで 終わりなんだよ
さらば 今日の日よ 満足してるぜ

平和なんだよ 近頃 いつもどおりさ 明日もあさっても
満足してるぜ

 

5月に入りマーシーと元部長と3人でバンドの練習を再開した。
ライブハウスを巡りながら、一緒に音楽を作る。
すっかりエレカシファンの二人と、次は何をコピーしようかなんて話しながらワイワイ騒ぐ。
「最近どうなんだ?」
別れ際に元部長が訊く。
「まぁ、満足してます。幸せです。」
笑って答えると、
「そうか、よかったな。お前がその顔なら平気か」
と煙草に火をつけて背中を向けかえっていく。

取り残されたマーシーが少しだけさみしそうに
「おまえはどんどん一人で大人になってしまうな。」
という。
「なにも変わってないよ昔から、ずっとそううれしいことはうれしいし悲しいことは悲しいし、でも最近日常の少しづつの幸せがとてもおおきくかんじるんだ。」
そういってまたねと言ってて頬にキスをし、くるりと背を向け去っていく。
それでもさみしそうにマーシーは手を振る。

散らかった部屋の中に おまえからのメッセージ
しなやかに愛を語ろう
うれしけりゃとんでゆけよ

誰にも言えないでもきっと伝わっている。
体の傷も増えたけどそれでも幸せも増えた。
カケルに久々に電話すると

「お前、なんかあったろ。」
といわれる。
「うん、でも乗り越えた。」
そう答える。
「じゃないと俺が飛んでいくもんな」
そういって笑う。
「飛んできてほしいときはちゃんというよ」
すこしだけ真面目にいう。
「おう、たのむぜ相棒」

ぶちのめせ世間の渦 したたかに笑いとばそう
涙ならひとり流せ
うれしけりゃとんでゆけよ

少しだけつらいこともあったけど幸せがより大きな幸せになった。
6月が始まる。生活の渦、高校生活は、まだ始まったばかりだった。
ふと窓を見ると雨粒が落ちてきて窓をたたく。
あぁ雨がしのげる。電気が付く。暖かい毛布。
コーヒーを入れる。
アルバイト先の庭に咲いてたホタルブクロ、育てたいから社長にもらった。
愛でながらため息をつく。
煙草を吸いながらにやりとして歌詞を思い出し口ずさむ。

ため息の向こうには 何かがある
転がっているのさ そこら中に
そんなものさ