月に手を伸ばせ

アートとバイク。思ったことを何処かに残したい。

私とエレカシ#29.5

博多へ引っ越す準備はすべてできた。

本来であれば絶対に住むことの出来ない物件を、
ただ住まうだけなら誰もいないよりは住んでいてほしいとカズキ君のご両親が貸してくれた。

紆余曲折あったがいったん婚約破棄された彼女とカズキ君も結婚をすることになった。
私にバイクを教えてくれて、闇落ちした時には引き戻す手伝いをしてくれた。
いつも何かにつけて構ってくれて、一番頼れる身近な大人だ。

カズキ君は結婚式にそんな私をよんでくれた。
カケルも同じく結婚式に呼ばれていた。
カケルに何かカズキ君に出来る事は無いかと相談を持ちかける。

「俺らだしな、やっぱ音楽と映画しかないよな」


そう言ってカケルの提案で映画を作り、バンドの演奏に合わせる事になり

カズキ君と彼女の同級生、バイク仲間、仕事先の人、私たちの街、
カズキ君の両親から招待客名簿を借り、出来るだけたくさんの人に手伝ってもらい映像を作る。
もう歌は最初から決めていた。
結婚の話を聞いた時、MVがすぐに浮かんできたし。
なんだかカズキ君と私はほんとの兄弟の様だったからぴったりだと思った。

 

卒業の1週間前には式が決まって、

私立に行く暇を持て余した私達は結婚式の準備を急いだ。映像は一人で作っていたのですぐにでも終わりそうだったが、バンドの練習は卒業ライブも控えていたのでかなりハードだった。

 

 

カケルは前日に小倉の街にやってきた。

「よぉ、久しぶり」

そう行って私の頭を小突く。

前にあったときよりも背が伸びたようで、少し老けて見えた。

 

カケルは遠方なので、ボーカルをお願いしていた。(マーシーは大不服だったが)

何度かリハをしたのだが、カケルがコーラス入れようといいだし、

私がコーラスで入る事になって。合わせてみる。(これにもマーシーは大不服だった)

初めてだ。カケルとちゃんとマイクを通して歌うのは。

オクターブ違いの私達の声はとてもバランスが良かった。

「これぞ俺らだな。よし、本番もこれで。」

そう行ってカケルは私の肩を叩く。

 

式の日、

映像が流れる

汚かった紫川、今は綺麗で何本も橋がかかっている。

綺麗な時代しか私は知らない。

 

流れる季節の真ん中で

ふと日の長さを感じます

せわしく過ぎる日々の中に

私とあなたで夢を描く

3月の風に想いを乗せて

桜のつぼみは春へと続きます

 

 優しいマーシーアルペジオが会場へ響く

 

スクリーンからみんなのおめでとうがカズキくん達を包む

 

砂ぼこり運ぶつむじ風
洗濯物に絡まりますが
昼前の空の白い月は
なんだかきれいで見とれました

お嫁さんは泣きながら映像を見る

お月様のような綺麗な笑顔だった、

それをカズキくんが優しく見守る

カケルはマイクをマーシーに渡し、頭を下げて場を離れる。

青い空は凛と澄んで
羊雲は静かに揺れる
花咲くを待つ喜びを
分かち合えるのであればそれは幸せ

 誰かのために歌を歌ったのはこれが初めてで、

私達のバンドは初めて誰かのための演奏をした。

教えてくれたのはカケルだった。

「オマエが歌いたくないとか、マジマ君(マーシー)が歌いたいとかそういうことじゃなくてな、どうやれば相手が一番喜ぶかだけを考えるんだよ。それができなきゃプロになんかなれない。」

そういってカケルは私達に映像に合わせた演出を提案してきた。

やはり、我が親友はひと味もふた味も違う。

すごいやつだった。

 

 

カズキくんのご両親もお嫁さんのご両親も

私の家族でさえ泣いていた。

マーシーとハモリながら

会場を見渡す

この先も隣でそっと微笑んで

マーシーの最後の歌詞

ドラムとギターだけの音が響く

瞳を閉じればあなたが

まぶたの裏に居ることで

どれほど強くなれたでしょう

あなたにとって私もそうでありたい

 

喝采のなか、私達は会場から去る。

祝いの席でわいわいやれるようなそんな気分ではなく、

充足した多幸感を噛み締めていた。

 

瞳を閉じればあなたが

まぶたの裏に居ることで

どれほど強くなれたでしょう

あなたにとって私もそうでありたい