月に手を伸ばせ

アートとバイク。思ったことを何処かに残したい。

私とエレカシ#29

サクラサク

格通知が来たのはぼろぼろの精神状態で受けた受験校だった。

学費の免除も通過し、ほどなく入学の手続きを受け始めた。

マーシーとカズキ君に頼んで引越の準備を探した。

おばあちゃんと過ごした小倉の家は取り壊されることになっていた。

私のおじいちゃんは作家で、建築士だった。

おじいちゃんの設計したおばあちゃんの家は、おばあちゃんへの愛があふれていた。


第二次世界大戦が終わり、小倉の街は明かりを取り戻していくさなかの話だ。

闇市のような市場でおばあちゃんは小さなうどん屋さんで働いていた。
日本に帰ってきたおじいちゃんはそこで働くおばあちゃんを好きになってしまう。

毎日毎日うどん屋に通い、おばあちゃんはよっぽどこの人はうどんが好きなんだなぁと思っていつもこっそり大目にうどんを盛ってあげたらしい。

おじいちゃんはおばあちゃんにうどん屋さんで突然たくさんの百合の花束を持って行って
プロポーズをする。

おばあちゃんは驚いたらしい。
「私は学校も出ていないし、一度結婚もしていて夫は戦地で亡くなってしまったの。一人息子を郷において一人で都落ちしてきて、貴方のような素敵な男性に見初められるような女ではないわ」
とおじいちゃんに言った。
「それでもいい。それでも、私はあなたの息子さんも全てひっくるめて一緒になりたい。この日本で一緒に生きていくならあなたしかいないと思っている」
そうおじいちゃんは言ったらしい。

おじいちゃんはほんとはうどんが嫌いだったのよ、とおばあちゃんが優しい目をして笑っていた。


そんな二人の家だから台所の高さから、階段の高さまですべておばあちゃんに合わせて作ってあった。

そんな愛の家で私は育った。

この家でおばあちゃんに抱きしめられて寝たのも、おばあちゃんにけがの手当てをしてもらったのも、画集を一緒に見たのも全部ここだった。

涙がやっと出てきた。

おばあちゃんは私をいつも愛してくれた。
幼稚園に行けなかった時も、
私をカナダに向かわせた時も、
妹と話せなくて苦しんでいた時も、
天に上るその日まで。
私はおばあちゃんに優しくされた。

部屋の中にあるいろんなものを一つ一つ箱に詰めていく。

 

 

古い美術館に眠る 大切な宝物
夏の陽に照らされて 魔法が解けてゆくように
新しい愛をいつでも 探し歩いている
求めてるその気持ちが町中をかけめぐる

写真に、本、古い映画のフィルム、カメラ、レコード…
全部持っていきたかったけれど全部は持ちきれなかった。
ビデオカメラでおばあちゃんの家の一つ一つを映しながら
繰り返し繰り返し同じ歌を歌う。
やっぱり出てくるのはエレカシの歌だった。

愛する力を求め続ける勇気を
本当の姿を 見つける旅へ行こう

愛されることを怖がっていた。
おばあちゃんだけじゃなくて、マーシーにも愛されているのに、斜に構えてしまって、困らせてしまう。
お母さんへ愛してくれだなんていえなかった。
愛を見つけに行こう。
本当の愛の姿を探しに行こう。

オレ達が目醒めて行く 静かすぎる夜明けに
毎日が少しだけ 悲しみを増すのはなぜ?

敗北と死に至る道が生活ならば
あなたのやさしさを オレは何に例えよう

 

おばあちゃん。ありがとう。
あなたの優しさがいつも私を溶かしてくれる。
家族でいてくれた。
誰よりも。
だから生きてこれたんだ。
どんな道も終わりに繋がるのであれば、あなたが今まで生きてきた人生にはやさしさがあふれていた。

口唇に心にいつでも感じていたい
覚醒の裏腹にある本当のあなたを

私がこれから話す言葉全部
私がこれからなす行動全部
あなたの愛のたまものだから。愛を胸に生きていくよ。

散々泣きながら部屋を一通り撮影して、質屋の人間が家に来て、多くのガラクタを引き取ってくれる頃にはもう真っ暗になっていた。

カズキ君とマーシーが迎えに来た時には私は疲れ切っておばあちゃんと過ごした家で眠っていた。

目を開けると目の前にマーシーがいて、私はまた泣きながらマーシーに抱き着いた。
「どうしたどうした」
マーシーは頓狂な声を出す。
「おばあちゃんが死んじゃった」
私はマーシーに泣きながら言う。
「そうだな。やっと受け止められたか」
マーシーはトントンと背中をたたく。
マーシー、大好きだよ。マーシーもカズキ君もお父さんもお母さんもみんな大好きだ。」
そう言ってまたなく。
「おいおい泣き虫、俺は特別って言ってくれよ」
そういいながらマーシーは私の涙をぬぐいながら目の下にキスをする。
真っ暗で何も見えない部屋、月明かりの下、暫くマーシーに抱き着いていた。

愛の痛みは愛でしか流せないんだ。
そう気付いた夜だった。

愛する力を求め続ける勇気を
本当の姿を 見つける旅へ行こう

敗北と死に至る道が生活ならば
あなたのやさしさを オレは何に例えよう

例えてゆこう