月に手を伸ばせ

アートとバイク。思ったことを何処かに残したい。

私とエレカシ#28

家にいると、何かにつけて母が私を呼び出してきた。
家の手伝いもしないでと怒鳴りつけてきたり、
わざと何か要件を言いつけてきたり、とにかく受験勉強の邪魔をするので、結局夜中しか勉強が出来なかった。
マーシーのお母さんは学校の先生で真剣に相談に乗ってくれた。
いろんな奨学金の説明もしてくれた。
両親の事を訴えれば受けれる奨学金もあったけど、家族がばらばらになる可能性の話もしてくれた。
それだけはしてはいけないと思った。
学力でとるしかなかった。
だから勉強したいのに、と焦る気持ちと、母へのイライラが溜まりにたまっていた。

 

珍奇男

珍奇男

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誰かがぬかした私が寄生虫だと
ありがとう皆さんまたひとつ勉強しました
世間の義理にうしろ指さされて
ここまでたどりついたが
働いてつかれ苦労してオットット
恐ろしや世間の風

珍奇男を聞きながら自問自答する。
私は何か悪い事をしているのか。
行きたい学校に行くのは何が悪いのか。
家族からはなれることは家族を捨てる事になるのか。
私は今まで家族というファシスト政治の中のユダヤ人の様なもので、
共通の敵のような扱いをしていたのではないのか。
これからもそうなるのではないのか。
私は私の人生を生きられないまま死ぬのだろうか…。

机さん机さん 私はばかでしょうか
はたらいてる皆さん 私はばかなのでしょうか

私を親不孝者と呼ぶ人もいる。
私を愚か者と呼ぶ人もいる。
親を悪くいう人もいる。
だけど、そんなの人の意見でしかなかった。
私は、これ以上家族を嫌いになりたくなかった。
愛していたかった。
でもそれは道徳的にそう思わなければいけないと縛られていたのかも知れなかった。

世間の義理に見張られておっとっとっとっと
ここまでたどりついたが
はたらけど疲れ 苦労しておっとっと
恐ろしや世間の風

何もかも捨てて、生きなければいけないとおもった。
私は私の人生を歩まなければ、愛してくれた人たちに本当に申し訳ないと思った。

だから、私は、もう、母の事で悩む時間はない。悩んではいけない。
繰り返し聴いた珍奇男の中で私は生きる道を結論付けた。


罪悪感なんて感じなくていい。
龍おじちゃんのためにも、マスターのためにも、カケルのためにもマーシーマーシーのお母さんの為にも私は必死こいて生きなきゃいけなかった。

 

 

おばあちゃんはもう何度目か分からない入院をまたしていた。
ここしばらくは心臓も悪くして何度も何度も心臓にステントをいれた後なので、もう移動すらかなりの負荷になっていた。

在宅で透析をする…というのが現実味帯びた話になった。
おばあちゃんは手術をうけ、経過を見るために今回は長めに病院に行くことになった。

進路で唯一の心残りはおばあちゃんだった。
時間が許す限り、学校が終ればすぐにでもおばあちゃんのもとに行き、おばあちゃんの隣で勉強をした。
毎日変わりゆく窓の景色をおばあちゃんに話し、お茶をいれ、おばあちゃんの体をさする。
代えがたい時間をおばあちゃんと過ごすために、小倉との最後の冬は毎日おばあちゃんとすごした。

「側に入れなくなってごめんね」
おばあちゃんにつぶやく。
おばあちゃんはにっこり笑う。
「幸せにならなきゃだめよ。常に、自分がどう生きれば幸かをかんがえなさいよ。私の事もなにも考えちゃダメよ。」

そう言ってからおばあちゃんは一週間と経たずに死んだ。
お正月に一度帰ってきたばかりだった。
一緒にまたお出かけしようねなんて言ったばかりだった。

朝の4時。病院からの電話出て母を起こす、母は泣きながら車を出す。
病院に到着するともうおばあちゃんは息を引き取っていた。
母が私にどなりつける。なんでもっと早くに変化に気付かなかったのと。
母を抱きしめる事しかできない。

母は何もできなかった。
私は涙が出てこなかった。
おばあちゃんの互助会先の葬儀会社に電話する。
とりあえずおばあちゃんは何もかも問題無い様に準備をしていた。

葬儀までの間。カズキ君が何度か立ち寄ってくれた。父に何かを話し、母にも言葉を投げかけていた。
妹と弟は祖父母の家から通夜から葬儀の間かよっていた。
親戚たちはおばあちゃんのために集まってくれた。
葬儀の日、ずっとお酌をしながら、おばあちゃんの思い出話を聞く。
どの人もおばあちゃんの優しさに感謝していた。
正直言うと、心神喪失してしまった母を何とか喪主にするために、奔走していてよく覚えていなかった。

出棺の時、ただ雪が降っていた事だけは今でもはっきり覚えている。

全てが終わり家に帰った後、仏壇におばあちゃんの写真を置いておばあちゃんの部屋を見つめる。
あぁいなくなってしまった。
おばあちゃんがいなくなってしまった。
そう実感して誰もいない家でわあわあ泣いていた。

 

それから毎日、母が私におばあちゃんを追い込んだのは私だと叫ぶ。
本当にそんな気がした。
カケルから何度か電話があった。出る事が出来なかった。
マーシーも家に来た。それでも出る事が出来なかった。
もしかしたら私はこうなる事を望んでいたのではないかともおもった。

おばあちゃんが死んでほっとしてしまった自分がいる事にほとほと嫌気がさした。
泣いている涙すら何の涙かもわからず汚い気がした。
エゴの中生きている自分がとても汚く見えた。

 

習わぬ経を読む男

習わぬ経を読む男

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理屈のために理屈をこねにこねた
俺はいやらしい人間さ

裁判所じゃBaby
俺のこと死刑さきっとそうさ
あぁ俺はなんて幸せな幸せなやつなんだ

 

母は私にどなり続けていた。父にも殴られた。もう心が死んでいた。
私が悪いならそうだ。

私もこの悲しみを怒りに変えてしまう両親と何も変わらなかった。

君とどこが違うの
君と君とどこが違うの

どうせ汚い人間だ。もうどうでもいい。
なんとでも言ってくれ。

お前らだって何か理由を付けて私を責めたいだけじゃないか。
怒りに身を任せ、自分の肌に父と同じように煙草を押し付ける。
痛みが少し心の痛みを和らげる。
おばあちゃんの事を考えない時間が作れた。
また学校へ行けるようになった。

受験直前の学校は私には無関心だし私も他人には無関心でいたかった。

世界の音楽が止まってしまうくらいなにも感じない1月の終わりは
私にはちょうどいい日だった。