月に手を伸ばせ

アートとバイク。思ったことを何処かに残したい。

私とエレカシ #26

社会人から学生バンドまでが出られる夏祭りの大会は、
オーディションから本番まで課題曲と自由曲

で競い合う。
本番で歌えるのはたったの5組、
私たちは絶対に勝てると確信していた。
現メンバーが夏前に居なくなったのでドラムは元部長に頼んで入ってもらった。
小さな町の小さな大会だ、他の人間よりも確実に演奏できると思っていたし、私たちとは熱量が違っていた。

オーディションが終わり、結果が出るにはそうかからなかった。
マーシーからの愛の告白withラブソングが15回を超えようとするころには結果が出てしまった。

やはりオーディションは通過していた。

もうここまで来たら優勝狙おうぜと意気込んでいた。

演奏のバックでスクリーンに映し出す映像を私はずっと前から作っていた。
子供のころから見ていた小さな灰色の空、汚い川、排水溝のネズミ、汚い物だらけの町が、きれいに見える瞬間があった。その情景を探しながら、カメラを回す。本番に向けてその映像を作る事だけに専念した。
なんどもなんども小倉の町を美しい景色を撮りに出かけた。

寝るのも忘れて何度も映像の編集をする。マーシーは出来上がった映像をすぐ確認したがった。
マーシーもそれなら演奏はこうだとかああだとかずっと悩んでいた。


二人でよく喧嘩したし、よく笑った。
元部長はいつも柔らかな顔で私たちをみていた。

「お前、よく笑うようになったな」
元部長は私に言った。
マーシーはよく真剣な顔するようになった」
そうして元部長はニンマリする。
私たちも顔を見合わせて笑った。

夏祭りの日、
マーシーにどうしてもと頼まれてリハ前に夏祭りの会場をデートした。
課題曲のイメージをつかみたいとか今更なことを言っていたが、そんなのは口実だとすぐにわかる。

JITTERIN'JINNの夏祭りは甘酸っぱい恋の歌だったし、私もそんなことを考えながら二人で祭を歩く。

目を閉じれば太鼓の音、鐘の音、すべてが音の波に乗っていた。
水風船みたいできれいだった。

横を見ればマーシーが目をキラキラさせながら祭を歩いている。
ひょこひょこするもんでいなくなってしまいそうだった。
危なっかしくて腕をつかむ。

マーシーはすぐに手を絡めてくる。
「いなくなったりしないぞ」
そういって笑いかける。
いつもにこにこしていた彼の手が震えていた。
「だっせーの。お前のリードは私がやるよ。」
そういって吹き出した。
「高校、ちゃんと福岡の高校に行ってよ?遠距離なんか嫌だからね」
精一杯女の子としてマーシーに伝えたつもりだった。
「まかせとけ、君がいれば俺は何百倍もパワーがわくんだ。頑張れる。」
そういっててを握り返す。
ドキドキが止まらなかった。

この気持ちのままなら歌える気がする。
そう思ってリハに戻る。
結局スーパーボール釣って手を繋いだだけだったけだったけど、二人でドキドキしながらステージに立った。

普段と違うお客さんの数とか、ステージの明るさとか、まったく関係なく、ただとなりにマーシーがいるだけで胸が熱くなった。

激しいドラムとギターにかさねて歌をうたう。

君がいた夏は 遠い夢の中
空に消えてった 打ち上げ花火

打ち上げ花火の様でもいいや。

楽しいし。超きもちいい。
そう思いながら演奏を終える。
ぱらぱらの拍手。それでも私たちは気にせず演奏をする。

 

3人で 選んだ曲だった。

栄光に向って走る あの列車に乗っていこう
裸足のままで飛び出して あの列車に乗っていこう

マーシーの声が響き渡る。
弱いもの達が夕暮れ さらに弱いものをたたく
その音が響き渡れば ブルースは加速して行く

1年の時最初にクラスが同じになった時は野暮ったいやつだと思った。

ギターを最初に部室で弾いた時は、キツネとマーシーとドラムの部長だけは嬉しそうな顔をしてくれた。

見えない自由が欲しくて
見えない銃で撃ちまくる
本当の声を聞かせておくれよ

 

ボーカルをやれと言ったのはキツネと別れたあとの元部長だった。

自己発信が苦手な私をよく分かっていたかもしれない。バンドとしても成長したかったかもしれない。

なのに、薬に溺れてすぐバンドを抜けて、なのに元部長は私を諦めないでいてくれた。

 

此処は天国じゃないんだ かといって地獄でもない
良い奴ばかりじゃないけど 悪い奴ばかりでもない

バンドがあったから、学校に来れた、思えば痛みを背負ってくれた人たちがたくさん周りにいた。

世界中に定められた どんな記念日なんかより
あなたが生きている今日は どんなに素晴らしいだろう
世界中に建てられてる どんな記念碑なんかより
あなたが生きている今日は どんなに意味があるだろう

今日これまでの日を生きてきてよかったとコーラスの途中出ないてしまった。

マーシーも多分ないていた。

大会の途中なのに、会場は応援に来てくれた同学の仲間の声で埋まる。

Train-Train 走ってゆく
Train-Train 何処までも
Train-Train 走ってゆく
Train-Train 何処までも
Train-Train 走ってゆく
Train-Train 何処までも

夏の浮かれた夜空に月が照らす。

優勝は出来なかったけど、ちっちゃいトロフィーを貰った。

「気持ち入り過ぎちゃったな」

そう言ってマーシーが笑いかける。

「ダサいよな。」

元部長も笑う。

帰り道3人で最高にハイになりながら

公園へ行く

私はマーシーからギターを奪い取りアンプに繋いでもないエレキをかき鳴らす。

「告白の歌ってのはなぁ、こうやって歌うんだよ!マーシー!タケ(元部長)!」

人前で初めてエレカシを歌った。

 

星の降るよな夜に

互い肩でも組んで

歩こうぜ歩こうぜ

星の降る夜に

ブラブラ行くとしよう

どこまで行けるだろか

時には励ましあって

時にはそう手を取り合って

歩こうぜ歩こうぜ長い坂道を

歌い終えるとマーシーも元部長も抱きついてくる。

「バンドやろうぜ、3人でみんなでボーカルやりながらさ、な?いいだろ?」

そう言って2人に提案する、

2人とも笑ってうなづく。

楽しかったこと辛い思い出

諦めはしないぜ

たとえ月日が流れようと

歩こうぜ歩こうぜ長い坂道を