月に手を伸ばせ

アートとバイク。思ったことを何処かに残したい。

私とエレカシ#25

夏になった。
何度目かの恋人何度目かの別れ、ほとほと恋に疲れてしまった。
思春期の同性愛なんて、興味本位ばかりだった。
ずっと同性愛者なんだと思っていたので、どーせ周りに本物なんていないと落ち込んでしまった部分もあった。
学校の中庭、私たちの練習場、あおむけになって煙草をふかす。
「バレたらどうすんだよ」
ギターに叩かれる。
睨みつけると隣でギターはあぐらをかいてギターを抱きかかえる。
「あっちー、こんなんじゃ楽器ダメになっちまうよな」
そういいながらチューニングをはじめた。
こいつは1年の時から一緒のバンドで、そもそもかなり浮いてるし騒がしいし、ブルーハーツが好きで名前をもじってマーシーと呼ばれていた。

ベースを脇に置いて水をかぶる。
マーシーも真似をする。

顔を真っ赤にしながら曲を合わせる。毎日練習してるのなんて私とマーシーぐらいだった。
…というか部長なので一人でも来るとなると開けなければいけないのでマーシーの所為で毎日来ていた。
家に居てもいい事なんてなかったのでとりあえず外に出ておきたかった。

「おまえってなんでレズなの?」
急にとんでもない爆弾をぶち込んでくる。
「お前に関係ないだろ。俺だってよく解らねーよ。昔は清志郎さんに恋してたし、元部長(キツネ)だって…たぶん好きだったし!」
そう慌てて説明する。
「そんな泡飛ばしながらキレんなよ、おまえとさ、演奏してると、お前のことすごい考えるんだよな、俺」
マーシーはつづける
「それでさ、俺思ったわけ、お前のこと好きなんじゃねえかなーって」
にやっと笑ってマーシーはいった。
「お前何バカ言ってんだよ、黙って練習しろよ」
そういって私は逃げる。
「いやいやいやいや、お前がレズじゃないんだったら俺はあきらめねぇよ?」
そういってマーシーは追いかけてくる。
「俺今人生で初めて勉強してんだよね。お前と同じ地域の学校行きたくて。うわさしか聞いてないけどお前福岡市行くんだろ?」
そういってリュックをごそごそしながらマーシーは顔を上げて言う。
「ほら、俺のこのパンフレットの数を見ろ!本気なんだよなぁ。お前とバンド続けたいってのも、お前と付き合いたいってのも」
学校のパンフをばさばさしながらいう。
「いや、俺まだ学校決めてないし、博多にいきたいとは言ったけど、まだ親にも話してないし、通ってる学習塾だって県外を押してくれてるけど、うちの親がそんなの認めないからな」
そういってアンプの電源を入れた。
「俺もエレカシひこうか?キツネさんみたいに」
そういって歌い始めたのは

 

男餓鬼道空っ風

男餓鬼道空っ風

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耳慣れたことばかりだぜ

右から左へ抜けてくよ
うれしいこともそう悲しいことさえ 
全部が全部たいくつのもとさ

(…マーシー、お前らしいぜ、お前、それ絶対ラブソングじゃねーよ)
確かにマーシーはいつも退屈そうな顔をしていた。音楽をやってない時は教室で烈火の炎を読んでいた。
それにいつも眠たそうな顔で、教科書をよだれだらけにしてしまうような奴だった。

無念の想いもないかわり 
喉ばかりやたら渇くのさ
三途の川までは見えないが 
明日の無事だきゃ見え過ぎなのさ

坊ちゃんの幼少期のように生き急いでる感のある奴だったが、
甲本さんのファンになってからは飼育委員とかやってウサギの世話するようになった。
音楽が人を変える。自分がそうだったからよく分った。
彼にとってはブルーハーツがそうだった。

胸を焦がすような願いごとは
知らないうちに通り過ぎ
凄いこともあった気がするが
なんだかもはや忘れちまったぜ

マーシーは飄々とした奴だった。
冗談ばかり言って、どちらかというと厳しい私と、ひょうきんなマーシーは北風と太陽の様だった。
それでも私たちは同じ渇きを感じていた。
練習になった途端お互いの表情も変わって、部員達も固唾をのむほどだった。

おいおい誰か見せてくれ
胸のすくような冒険を
夢だきゃたくさん持ってるぜ
やりたいことがたくさんあるのさ

そう、私たちはずっとやりたいことをやる為に必死で生きてきた。
こいつが私と付き合いたいというのもやりたいことの一つなんだ。
夢をみたきらきらとした奴だった。

歌い終えてドヤ顔で私を見やる。
キツネの時と全く違う。
やっぱり笑いが込み上げてきた。

汗だくのマーシーは頓狂な顔をしていた。
「え、お前はエレカシ歌えば落とせると思ったんだけど」
残念そうな声を上げる。
「誰がそんな単純つったよ」
久々に腹から笑った。
マーシーも笑い出す。
二人でタオルをかぶってげらげらと笑った。
もうすぐ夏祭りのバンドの大会だった。
毎年3年の先輩しか出れなかった大会だ。
課題曲ともう一曲を演奏しなければいけなかった。
マーシーと私はスコアを広げ曲を選曲する。

青い空に白いスコア、私たちはわくわくしていた。

今日もなんかねえよなんかたりねえよ

男餓鬼道空っ風
今日もなんかねえよなんかたりねえよ

そろそろ御飯の時間だよ