月に手を伸ばせ

アートとバイク。思ったことを何処かに残したい。

私とエレカシ#17

あの一週間は絶対に忘れない。

一日目


祖父母に1週間家をあけるという話をした。

 

散々文句を言われたが妹と弟を預けた。

カケルはカズキ君と一緒に車で私を迎えに来た。
「カズキさんには全部話しておいた。だから大丈夫だよ」


カケルは私の背中を擦りながら言った。


カズキも運転席から
「お前を信じてやれなくて悪かった。お前を心配したんだ。ほんとにそれだけなんだ」


そう言って車を進める。

「1日1箱、そのために万引きもした、カツアゲもした。人も殴った。やっちゃいけない事全部やった。抜け出さなきゃと思ったんだ。カズキ君に話そうと思ったんだ。でも、もう信じてもらえないと思ったんだ。カズキ君が悪いんじゃねえ。自分が悪いんだ。だから叱って欲しい。」
カズキ君に言った。
カズキ君はただサムズアップしただけだった。
薬からとにかく離れるしかねえ、はまってるのが1か月やそこらならなおさらだ。
そういってカズキ君はキャンプ場のロッジを借りてくれた。
カケルは山小屋で私の目の前で全部薬を燃やした。


「意外とちゃんと燃えるんだな」


カケルは感心していた。

 


もう切れてきた薬に、イライラしてずっとタバコを吸っていた。
カズキ君は何かあれば連絡しろと言い残し車で帰って行った。
たった7日、我慢できる、大丈夫。
そう思った。
「お前、これから一生薬やめるんだぞ、絶対だぞ」
カケルは私を睨みつける。
無理だ…そう思い直した。

二日目
カケルの言葉とは裏腹に薬の事しか考えられなかった。カートン買いしたタバコもう足りなくなりそうなくらいずっと吸っていた。
「お前吸い過ぎだぞ、それだっていいもんじゃねえんだわかってんのか」
カケルはいう。
「うるせえうるせえうるせえ」
そういってカケルを殴りつける。昨日から寝ていないし、コーヒーしか飲んでない、タバコも吸い続けても落ち着かない。
「暴れろ暴れろ、ほらもっと殴れ、薬でへなちょこのお前のパンチなんかいたくねーよ」
そういって笑う。
頭痛と、悪寒と、せん妄と、もっと悪いのは共感覚だった。悪い方に作用してしまうと全く動けなくなる。
耳元でスクリームかけられてるような、もう立ってられないようなそんな耳鳴りが続く。
「たすけてくれえええええええええええ」
叫んでも平日のキャンプ場。誰もいない。
カズキはすずしい顔をして
「がんばれ、そばにいるから」
そういった。
何度叫ぼうが泣こうが誰も助けてくれなかった。

三日目
不眠も三日目になると、太陽がほんとに痛かった。
ずっと土を掘り返していた。
埋まりたかった。


耳鳴りに、自然の音、自分の叫び声

カケルはずっとそばに居た。


ずっとギターを爪弾いていた。


カケルからギターを奪い取り、自分の心の音をぶつける。


カケルはずっと私の横に居た。


ずっと穏やかな顔で私を見つめていた。

何も言わなかった。


体が痛かった。

何も食べれないし、体が熱かったり冷めきったり仕方がない。


カケルに殴りかかり、カケルに抱きとめられる。

全然力が入らない。
「頼むから、頼むから薬を」

そう叫んでいた。

「だめだ」

カケルは冷たく言う。

四日目
疲れ切って声も枯れていた。
「もう疲れた」
カケルに言った。
カケルはにっこり笑って、
「んじゃ寝ろ」
といった。
寝ようとすると、また幻覚が襲う。
「助けて、助けて」
うわごとのように叫んでいた。


カケルは私をだきしめたまま寝かしつけた。


母親のように、父親のように

ただずっと抱きしめていた。

私は初めて安眠したかもしれない。

カケルにしがみついて寝ていた。

五日目
カケルはベッドの横に座り、コーヒーを渡し


「すこしは、落ち着いたか?」

といった。


「あぁ…よくわからない。ずっとあのまま寝てたのか」

私がカケルに聞くと


「俺にママって言ってたけどずっと寝てたぞ。」

そう言って頭をなでた。


少し外に出る。ギターを抱えて。

もう夜だった。
そんなに長い時間、寝ていたとは思わなかった。


ギターを弾いていた。
歌まで歌っていた、びっくりするぐらい大きな声で。


カケルは隣で一緒に歌う。

 

 

月の夜

月の夜

  • provided courtesy of iTunes

 

月の夜よ
月の夜よ
一夜の夜を 優しき詩を
暗黒の夜にひびかしむ
はなかき光で

さよなら
さよなら今日よ
ああ
皆が眠りし月の夜に
も少し遊ぼうか

 

繰り返し一緒に歌っていた。
オクターブ違いの歌声が心地よかった。

六日目
薬がなくてもなんとか大丈夫になってきた。


カケルとさんざん歌ったあとだ、二日酔いみたいに頭が痛かった。


だのに、カケルは朝から元気に乾布摩擦する!とかなんとかいって外に飛び出ていった。


五日ぶりだった湯船にきちんと浸かるのは、体の悪い毒が全部流れ出ているようだった。


風呂から上がると、猛烈にお腹が空いた。


カケルは、スープを作ってくれた。


大きな鍋に何人前あるかわからない量のスープを

「なんかよくわかんねえけどいっぱい作った」

カケルは私にいう。


一口飲む。
びっくりするぐらいなんの味もしなかった。


無言で味付けをし直した。
カケルはニコニコしながら、私の隣で料理をしている私を見ていた。


「そっかーお前に頼めばよかったな、毎日料理作ってんだし、偉いよなお前。」


そんなことを言いながら、皿を出す。


「塩もコンソメも入れなきゃなんの味もつかんだろ。」

そういうと、カケルは嬉しそうに、そりゃそうだなという。


優しいやつだ。
全部わざとなのがわかっていたから余計に嬉しかった
スープを二人であほみたいに食べた。
聞けばカケルも何も食べていなかった。
我慢比べのつもりで、何も食わなかったといたずらに笑った。

七日目
最終日、カズキ君が朝一に迎えに来た。
「どうだ?顔色よくなったみたいだけど」
カケルに聞く
「一時的には、もう大丈夫だと思うっす。でも、ちゃんと病院つれてかねぇと、そういうのカズキさんにお願いしてもいいっすか?」
カケルは言った。
「おう、まかせろ」
カズキ君はそういった。
「お前はしばらく、ウチで飯食うんだぞ、学校から帰っても、お前もすぐ俺んとこ来い。俺いなかったらおふくろのとこだ」
カズキ君は私に言った。
「あぁ・・・ごめん」
そう頷いた。
カケルはバイクを取ってきて、そのまま自宅へ帰って行った。
帰り際にまた秋に来るから、文化祭の日取り決まったら教えろよ。といった。

カケルは帰ってからも毎日連絡をくれるようになったし、
私は週に一度の病院にもきちんと行くようになった。
知ってか知らずか妹弟も私の事を少し手伝ってくれた。


「こんな姉ちゃんでごめんな」

そう言って寝顔をみやる。

夏はもう終わる。

学校に行かなきゃ。