月に手を伸ばせ

アートとバイク。思ったことを何処かに残したい。

私とエレカシ#13

秋も終わりが近くなると、
中3の先輩たちはみんな引退していった。

 

私とキツネは相変わらずギター教室をやっていたし、一緒に曲を作っていた。

変わらないものは何もない。

軽音楽部の部長は、ドラムに代わった。

軽音部内でもボーカルだった部長が抜けてからは、また新たなバンド編成でやらざるを得なくなった。

「おい、お前ボーカルやれ、ベースも」

晴天の霹靂だった。

断ろうとしたが新部長は許してくれなかった。キツネに泣きついたが相手にしてくれなかった。
部は上下関係がはっきりしていたので先輩の命令は絶対だった

「歌を教えてくれ」
キツネに頭を下げて頼む。彼は笑いながら二つ返事で承諾してくれた。

バンドでボーカルをすることになった。

 

最初のボーカルデビューは卒業式後のお別れ会ライブだった。

パートナーに送る歌。何よりバンドメンバーに送る歌。

キツネには夢があった。

だから彼は早々に学校も決めていた。

はじまりは今を私に歌った本当の意味を知ったのはその練習が始まる頃だった。

迎えに行く、それはつまり私より素晴らしい人間なんて星の数ほどいるにも関わらずバンドのベーシストとして私を迎えるつもりなんだ。

それはただの彼にとっての足枷でしかない。

 

ただひたすらに真剣に夢を追うキツネをそんなことで縛り付けるのは、友としてもパートナーとしても違うとおもった。

彼の夢を応援したかった。

なにか、キツネにひとつでも返せる恩があればいいと思った。

 

派手なメイクなしで、彼の為に歌いたいと思った。

彼の好きなスピッツを別れの歌に選ぼうと思った。

 

バンドメンバーに頼み込んで

合唱曲にもなっていたスピッツ空も飛べるはずを選んでいた。

 

なんとなくだけれど、この歌は別れの歌に最適だと思った。

スポットライト、

小さな小さなライブハウス、

 

 

 

切り札にしてた 見え透いた嘘は

満月の夜に 敗れた

キツネを愛せない私と

愛そうとしてくれたキツネに重ねて歌った。

 

君と出会った奇跡が この胸にあふれてる
きっと今は自由に空も飛べるはず
夢を濡らした涙が 海原へ流れたら
ずっとそばで笑っていてほしい

ずっとそばにいてくれたキツネに

今からは自由に夢へ向かって進んで欲しかった

そして夢がいつか本当になって、

私を思い出にして近くへ置いていて欲しかった

 

だれも、その気持ちを止めないでいてくれた。

バンド仲間たちは私のそれをよく理解していてくれた。

きっとキツネが1番理解していてくれた。

何もしてあげられなかった。手を繋いで歩くことも抱きしめることも。

 

真っ直ぐ彼を見つめながら私は彼にごめんねとありがとうをつたえた。

精一杯の気持ちは

「卒業おめでとう」にこめた。

なんで泣いてしまったか、今ならわかる。

私はきっとキツネを好きだった。

 

キツネはギターを取り出し、

「おれも、1曲だけ」

そう言って、歌い始めた。やはり澄んでいてのびやかな彼の声は天にまで登りそうだった。  

荒削りだけれど、きっといいボーカルになる。

私はそう確信していた。

 

 Baby 今日が終わる 

外は少し雨が降ってる

風のように 空のように 

あなたを想った

胸の奥にしまってばかりの 

臆病な俺は 心の中いつも描いてた 

普通の日々

普通の日々

 

キツネは私の気持ちをちゃんと受け取ってくれた。

大切に思っていることも、別れを告げていることも。

最後の最後まで好きだと言い続けてくれた。

初恋にしては随分綺麗な思い出で

思い出を彩ってくれたのはエレカシだった。

 

街を人を時を すべてを 思い出そう Baby 幕が上がる 俺はきっと普通の日々から あなたを想って うたをうたおう 

 

去り際にはもう桜が咲いていた。

恋が終わり

少しだけ人として成長した気がした。